大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 昭和56年(ワ)1485号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一<中略>そして、<証拠>によれば、原告の本件事故による後遺障害は、昭和五六年一月一三日時点において、左頬部に一〇センチメートル及び五センチメートル、右頬部に四センチメートル及び五センチメートル、顎下に4.5センチメートル、その他額部にも七センチメートルないし一センチメートルの瘢痕が数条あり、隆起して著しく目立つ状態であつたこと、同月一四日に「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」として、自賠法施行令別表第七級一二号の認定を受けたことが認められる。

二婚約破棄について<省略>

三損害について

そこで、本件事故により原告が被つた損害について、判断する。

1 傷害の慰藉料<省略>

2 後遺障害の慰藉料

前記一認定の事実によれば、原告の後遺障害は、自賠法施行令別表の第七級に該当するものと認められる。そして、原告本人の供述によれば、原告は、昭和三五年五月二〇日生まれで、本件事故当時一七歳の未婚の女性であること、当時原告は、理容高等学校を卒業し、将来美容師になるべく商業高校夜間部に通学していたものであるが、本件事故により生じた前示の瘢痕を苦にして、昭和五三年八月ころに右高校を中途退学し、美容師になることも断念したこと、被告は、本件事故後に一回見舞に訪れただけであつて、原告に対し充分誠意を尽したものとはいえないことが認められ<る>。

以上認定の事実に、後記3及び4認定の事情等を考慮するならば、原告が被つた精神的苦痛は甚大であつて、これに対する慰藉料としては一〇〇〇万円が相当である。

3 婚約破棄による慰藉料

前示二のとおり、原告と被告とが婚約していたとは認められないから、これを前提とする右慰藉料の請求は理由がない。

ただし、原告本人の供述によれば、本件事故及びこれにより生じた前示瘢痕を原因として、被告との交友関係が断絶し、少なくとも原告が抱いていた被告との結婚の期待が裏切られたことが認められるのであつて、原告の精神的苦痛に対する慰藉料を決するにあたつては、この事情をも斟酌すべきである。

4 逸失利益

原告の後遺障害が自賠法施行令別表の第七級に該当することは前記2のとおりである。しかしながら、外貌の醜状を理由とする後遺障害は、直ちに労働能力の喪失に影響を及ぼすものではない。本件の場合、原告が理容学校を卒業し、将来美容師になる希望を持つていたこと、本件事故による後遺障害を苦にして、この希望を断念したことは前記認定のとおりであるけれども、これらの事情を慰藉料決定の際斟酌することはともかく、このことによつて労働能力の喪失がもたらされたとすることは相当でない。(なお、原告は、現在会社員として稼働し、約一三〇万円の年収を得ていることを自認している)。他に、原告の労働能力喪失の事実を認めるに足りる証拠はない。<中略>

四被告は、原告がいわゆる好意同乗者であるから、認容額から一割を控除すべきであると主張している。

しかしながら、好意同乗の一事をもつて、一律に認容額を減額すべきではないと解すべきところ、被告本人の供述によれば、原告は、被告の友人を送つてゆく被告運転の車に同乗したものであることが認められ、これに前記認定の本件事故の発生及び態様、原告と被告との間柄などを考慮するならば、本件においては、好意同乗を理由として認容額を減額すべきではないから、被告の右主張は採用できない。

五<以下、省略>(久保眞人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!